坂本クエスト | |||
お題 | |||
ああ、俺のペットショップが燃えてる…… どんな思い出がありますか? | |||
初ギプスさんの作品 | |||
父は早くに死んだ。 いつも仕事ばかりだったが家にいるときは優しく、入学式や遊園地で撮った写真は今もコルクボードに飾られている。よほど仕事熱心だったのか、父を悼んだのは人間だけではなかった。その夜のペットショップでは父が世話していた犬や猫たちが一斉に声を上げ、直接知ってもいないだろうにどこか悲しそうな顔をしていたと聞いた。俺はペットショップを継ぎ、日本中に店舗を持つような大企業にしてみせると誓った。 地方の大学を出て故郷に戻り、さぁ経営をと思ったが現実はそうは上手くいかなかった。大学で出会った妻の手伝いもあり細々とはやっていけるようになったが、このままではいけないと思いつつテレビを見ていると 「マジカルバナナ バナナと言ったら黄色」 これだと思った。これしかないと思った。マジカルバナナのようにペットショップから言葉を連想させていけばいいアイデアが浮かび、経営は好転していく。ペットショップと言えば犬、犬と言えば忠誠心。1年が経った。魚と言えば水槽、水槽と言えばちょい邪魔。2年が経った。俺たちのペットショップは全国とはいかないまでも、建物は豪勢になりペットショップ御殿と呼ばれるまでになっていた。そんなある日、 「図鑑と言えば博識、博識と言えばムツゴロウさん」 ムツゴロウさんになった。この時、俺たちはムツゴロウさんをバイトとして採用することを決めた。そこからの会社の成長は目まぐるしく、あっという間に日本全国に店舗を展開し世界を代表するペットショップにまで成長した。地元には犬の形の自社ビルが建ち、長野の南のほうはすべて直轄の工場となった。しかし、起こるのはいいことばかりではなかった。妻はブランド物を買い漁り朝帰りに、娘は周囲の僻みから部屋に閉じ込もってしまった。自社ビルは倒壊の危険があると取り壊され、長野県民からは目の敵のように見られるようになった。その時、妻の携帯が鳴った。知らない名前の男からのお誘いだった。ゾッとした。どうしてこうなった?原因は、原因は何だ?何が悪かった?本当に目指していたのはこんなものじゃなく、父の時のような細々と、でも確かに幸せな生活だったんじゃないか?何が俺たちを狂わせた?原因は、原因は、原因は、マジカルバナナ、浮気と言ったら探偵、探偵と言ったら探る、探ると言ったら原因、原因と言ったら、 マジカルバナナでは同じ言葉を使ってはいけない。しかし、これ以外思い付かなかった。 「ムツゴロウ」 「俺たちがこんなに苦しんでいるのに、今も何も変わらずそこで犬を撫でているムツゴロウ」 「いつの間にか会社に転がり込み、ふてぶてしく居座りレジ打ちをするムツゴロウ」 「全ての元凶は、ムツゴロウ」 家を出た。ライターを掴んだ。今はムツゴロウ御殿と呼ばれている1号店の端に火をつけた。ただ何もせず、大きくなっていく炎を見ていた。 拘置所で妻と娘の遺体が見つかったと聞いた。妻は燃えカスになったブランド物に囲まれて、娘は動物たちのケージを開けて回っている所を力尽きたらしい。 ムツゴロウの死体は、見つからなかった。 | |||
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点 | 名前 | ||
3点 | 564 | ||
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